
日常の中の希望
Concept of the work
今ある日常の大切さに目を向けたい。
気づいていないだけの希望を知りたい。

1.その星空は今
17歳の美海(うみ)は病室のベッドに横たわり、今日もまた星を数える。
不自由な体で過ごす日々だが、唯一の救いは、変化がなくとも美しい夜空が見えることだった。
今回の入院生活は、田舎の景色が見れる窓際。
それが彼女の退屈を優しく削り、退院までの日々を短く感じさせた。
窓が切り取る世界を、彼女はいつしか好きになっていた。
これまでに何度も入院し、自らの身体の弱さに苦しんできた美海にとって
幾度となく訪れる怪我や病気は、避けられない残酷な現実であった。
唐突に自由が奪われる度に、彼女は日常の大切さに気づく。
形を成した不自由が襲ってくる中、自らを攻めた。
「何で健康な時にもっと遊ばなかったんだろう」
「どうしてあの日、時間を無駄にしてしまったんだ」と。
病室から美しい夜空を眺め、次々と後悔する。
「この夜空と違って、私達はすぐ変わっちゃう。」
「時間を、健康を大事にしよう。退院したら自由に暮らせる毎日を後悔しないように生きよう。」
そう決意し、外の景色から目を離し、眠りにつこうした。
しかし、目を閉じた先の黒に塗られた視界で、数秒前まで見ていた風景が浮かび上がった。
「この風景も退院したら見えなくなっちゃうんだ」
美海は、今にしか寄り添ってくれない存在に気がついた。
2.きっかけ
初めは病院の窓から見える景色がきっかけだったが、入院生活でしかできないこと、見れないもの、今だからこそ触れられるモノの存在に徐々に気づいた。
「入院生活で人に話しかけるって経験は、入院生活中しかできないんだ」
病院の孤独で虚けていた彼女は、次の日の朝。向かいのベッドの人物に声を掛けた。
その女性は音楽に詳しく、美海が星を見ていることを知っていたのか、夜空に似合うバラード曲を教えてくれた。
「音楽は私にいつも寄り添ってくれるから好きなの。嫌な時も、前を向きたい時も。」
その女性の言葉を思い出しながら、夜はウォークマンで紹介された曲を流し、窓をのぞいた。
昼は他の患者と会話したり、筆を取り、自身のその日に感じたことを綴った。
「今しか入院してる時に感じたことは書けないんだ」
ただ感じたことを綴るのも2日で辞め、健康だった頃の時間の使い方や考え方と不自由な今を照らし合わせながら筆を進めた。
今しかできないことを続けながら今の想いを記録した。
1週間経ち、美海は車椅子での移動ができるようになった。その後、病院の談話室で
声を掛けた新しい友人が、日記帳に関心を持ったことで、初めて美海は他者にそのノートを共有した。
数分かけてページを捲る。友人は口を開く。
「この入院中ね。早く退院したい!こんな不自由な生活から早く抜け出したい!って毎日思ってた。」
「退屈で仕方なくて。」
「でも元の生活に戻っても何も夢も目標もないし。今をどう過ごしたらいいか分からなくて。」
また日記に目をやり、数分かけてページを捲る。
そして、1週間以上の美海の想いに触れた友人が顔を上げた。
「未来のことも大事だけど、今できること、この日常をもっと見つめてみようと思えたよ」
「改めて、話しかけてくれてありがとう」
日記帳は、その友人の心を揺さぶった。
感想を聞いた美海は、かつて窓の外を見ていた自分が、その友人と同じ考えを持っていたことに気がついた。
「私もそうだ。未来のことばかり考えて、今を捨てて。ずっと退屈だったんだ。」
部屋に戻ると、向かいのベッドの女性がちょうど退院するタイミングだった。
「美海ちゃん、話しかけてくれてありがとう。嬉しかったよ。後半の入院生活はいろんなお話できて楽しかった。」
「お大事にね」
美海は、退院する女性に予め書いていた手紙を渡し別れを告げた。
寂くはあったが、特に後悔は無かった。
その日からとにかく文を書いた。
日記だけでなく小説や脚本も夢中で書き続けた。
美海の文章は、読む者たちに自らの日常を振り返らせ、今ある感謝と喜びを再発見しようと思わせた。
3.未来
20歳になったある日、美海は自身の作品を本としてまとめ、出版することを決意した。
彼女の願いは、自らが感じた「日常の大切さ」と「今ある希望」を多くの人々に伝えることだった。
数年後、出版された本は短期間で大きな反響を呼び、多くの読者から感謝の言葉が届けられた。美海は自身の経験を通じて、人々に「今を大切に生きること」の重要性を伝える使命を果たしていた。
その後、美海は再び病院を訪れ、同じような境遇にある患者たちと交流し、心が落ち込みやすい入院中でも楽める考え方と行動を伝え、希望の光を届けるために尽力した。
ある日、見覚えのある顔がそこにはいた。
かつて日記を読んで感想を伝えてくれた友人は、入院生活の日常を見つめた中で、看護師に憧れを抱いたそうだ。
友人の元気でポジティブなキャラクターは、病室に希望を運び、日常の輝きを取り戻す力となっていった。美海は自身のベストセラーになったエッセイを数冊寄付し、病院を後にする。
「まるでキャンパスみたいな世界の星を辿って〜♪」
帰りの駐車場でエンジンをかけ、車内に流れるのは最近流行りの曲。
その曲の歌詞は、何故かかつての自分を歌っているみたいだった。
すっかり暗くなった。頭上の星座の名前はまだ覚えている。
車内を流れる星をテーマにしたバラード。
美海は微笑み、アクセルを踏み、病院を後にした。

上の小説は、過去に五回入院した僕が、毎回健康を失うたびに感じていた想いをきっかけに書きました。
僕は写真・映像・音楽・文・グラフィック等を用いて「日常における希望」を表現します。
人は、誰かのいい部分ばかり見たり、メリットだけに目が眩み、隣の芝が青く見えてしまう生き物です。
しかし、今生きている日常にちゃんと目を向けてみると、優しさだったり、友人や恋人、家族の存在。
健康に普通に生きている今。
失ったら後悔するようなモノが沢山あるはずです。
だから、より多くの人に今の日常に存在するいい部分に気づいて欲しい。
日常の中の希望を表現し続けます。